東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8312号 判決 1969年7月16日
原告 田中春男
<ほか五名>
右六名訴訟代理人弁護士 須崎市郎
被告 ネグロス電気株式会社
右代表者代表取締役 菅谷政夫
右訴訟代理人弁護士 河野曄二
同 横山寛
被告 渋谷悦夫
右訴訟代理人弁護士 河野曄二
主文
被告らは連帯して原告田中春男に対し金二九七万〇三八五円、原告田中孝に対し金三九二万八七九九円、原告山本大七、同山本ヒサに対し各二二万円および、原告田中春男の内金一六三万一一二五円、原告田中孝の内金三五七万八七七九円、原告山本大七、同山本ヒサの各内金二〇万円に対する昭和四二年一二月一七日以降、原告田中春男の内金一〇三万三二六〇円に対する昭和四三年八月二日以降、同原告の内金六〇〇〇円に対する昭和四四年五月三一日以降、同原告の内金三〇万円、原告田中孝の内金三五万円、原告山本大七、同山本ヒサの各内金二万円に対する昭和四四年七月一七日以降各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告田中春男、原告田中孝、原告山本大七、原告山本ヒサのその余の請求および原告田中福松、原告田中冨枝の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの、各連帯負担とする。
この判決は、原告らの勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
一、被告らは各自
原告田中春男に対し、金四九三万八六八〇円、
原告 田中孝に対し、金七五九万五三六〇円、
原告田中福松に対し、金一二六万八二六〇円、
原告田中冨枝に対し、金 一六万七〇〇〇円、
原告山本大七に対し、金一一二万六五〇〇円、
原告山本ヒサに対し、金一一二万六五〇〇円、および原告田中春男の内金一〇三万三二六〇円に対しては昭和四三年八月二日から、原告田中春男の内金二五万五〇〇〇円、原告田中孝の内金三四万円、原告田中福松の内金八万五〇〇〇円、原告田中冨枝の内金一万七〇〇〇円、原告山本大七および原告山本ヒサの各内金七万六五〇〇円に対しては昭和四四年七月一七日から、原告田中春男の内金六〇〇〇円に対しては昭和四四年五月二日から、その余の各金員に対してはそれぞれ昭和四二年一二月一七日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二請求の趣旨に対する答弁
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。
第三請求の原因
一、(事故の発生)
次の交通事故によって訴外亡田中和子(以下亡和子と略称)は、死亡し、原告田中孝(以下各原告の姓を省略)は傷害を受けた。
(一)発生時 昭和四二年一二月一七日午後五時二五分頃
(二)発生地 東京都江戸川区東瑞江二丁目三八番地先路上
(三)事故車 軽四輪貨物自動車(六足立軽八九四号)
運転者 被告渋谷悦夫
(四)被害者 原告孝および亡和子(歩行中)
(五)態様 被害者両名が路上右端を今井方面に向って歩行中、事故車の後部荷台から落下して来た積載物であるナショナルカラーテレビに当ったもの。
(六)被害者 亡和子は昭和四二年一二月一八日午後一時五〇分死亡し、原告孝は、通院加療期間一〇九日を要する前額部および左側頭部打撲の傷害を受けた。
二、(責任原因)
被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
(一) 被告ネグロス電気株式会社(以下被告会社と略称)は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。
(二) 被告渋谷は、事故発生につき、本件積載物がその走行中、道路のカーブ或いは車両の震動等により落下して通行人に当り負傷せしめないように施繩すべき義務があるにも拘らず、これを怠り、積載物であるナショナルカラーテレビを落下させた過失があったから、不法行為者として民法七〇九条の責任。
三、(損害)
(一) 葬儀費等
(1) 葬儀費
原告春男は、亡和子の事故死に伴い、葬儀ならびに納骨費として、二〇万円の出捐を余儀なくされた。
(2) 原告孝の治療費
原告春男は、同孝の治療費として昭和四四年五月二日中村外科医院に六〇〇〇円を支払った。
(二) 原告福松の財産上の損害
亡和子は、同原告の営む田中管楽器製作修理業の専従者として働く他に、洋服仕立技術者であるところから原告方の一切の衣服を自ら仕立てていたが、右事故による同女の死亡により、原告春男、同孝、同福松、同冨枝の衣服仕立が不能となり、外注および購入費として原告福松は一ヶ月五〇〇〇円の出捐をすることとなった。亡和子の稼働可能年数は二八年であるから、二八年間の損害を、ホフマン式複式計算によると、一〇三万三二六〇円となる。
(三) 被害者に生じた損害
(1) 亡和子が死亡によって喪失した得べかりし利益は、次のとおり四一三万三〇四〇円と算定される。
(死亡時) 三五才
(稼働可能年数) 二八年
(収益) 亡和子は、原告福松の営む田中管楽器製作修理業の専従者として、生活費を控除して一ヶ月二万円の給与を得ていた。
(年五分の中間利息控除) ホフマン複式計算による。
(2) 右訴外人の死亡による精神的損害を慰藉すべき額は、諸般の事情に鑑み三〇〇万円が相当である。
(3) 原告春男、同孝は右訴外人の相続人で他に相続人はいない。よって、原告春男はその生存配偶者として、原告孝は、子として、それぞれ相続分に応じ右訴外人の賠償請求権を相続した。その額は、
原告春男において二三七万七六八〇円
原告 孝において四七五万五三六〇円
である。
(四) 原告らの固有の慰藉料
その精神的損害を慰藉するには、
原告春男に対し二一〇万円(和子の死亡による慰藉料二〇〇万円、原告孝の傷害による慰藉料一〇万円)、原告孝に対し二五〇万円(和子の死亡による固有の慰藉料二〇〇万円、自己の傷害の慰藉料五〇万円)、原告福松、同冨枝に対し各一五万円(和子の死亡による慰藉料一〇万円、原告孝の傷害による慰藉料五万円)、原告大七、同ヒサに対し各一〇五万円(和子の死亡による慰藉料一〇〇万円、原告孝の傷害による慰藉料五万円)が相当である。
(五) 弁護士費用≪省略≫
四、(結論)
よって、被告らに対し、原告らは請求の趣旨第一項記載の金員(昭和四三年八月二日は訴状送達の日の翌日、昭和四四年七月一七日は判決言渡の日の翌日、昭和四四年五月二日は、追加診療費支払の日、昭和四二年一二月一七日は不法行為の日。以上、民法所定年五分の割合による遅延損害金の起算日)の支払を求める。
第四被告らの事実主張
一、(請求原因に対する認否)
第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)は亡和子の死亡は認め、原告孝の傷害の事実は認めるが、部位程度は不知。
第二項は認める。
第三項は、(一)の(2)は認め、(五)のうち原告代理人に委任したことのみを認め、その余は全て争う。
第五証拠関係≪省略≫
理由
一、(事故の発生)
請求原因第一項中、(一)ないし(五)および(六)のうち亡和子の死亡については当事者間に争いがない。≪証拠省略≫によれば、原告孝は本件交通事故により、前額部、左側頭部打撲傷の傷害を受け、昭和四二年一二月一七日から昭和四三年四月三日までの間に一〇回中村外科医院に通院して治療を受けたこと、同原告には事故前に比較して行動・言語・活動力に差異はなく、後遺症はないことが認められる。
二、(責任原因)
請求原因第二項は当事者間に争いがない。
三、(損害)
(一) 葬儀費等
(1) 葬儀費
≪証拠省略≫によれば、原告春男は亡和子の葬儀および納骨費として二〇万円の出捐を余儀なくされたことが認められる。
(2) 原告孝の治療費
請求原因第三項(一)(2)は当事者間に争いがない。
(二) 原告福松の財産上の損害
≪証拠省略≫によれば、亡和子は北海道の滝川東高等学校を卒業した後、滝川ドレスメーカー女学院で洋裁の技術を修得し、昭和三八年に原告春男と結婚した後も、同人らの長男である原告孝の背広上下等を作成したり、時には知人に頼まれて好意的に無償でその家族の洋服を作成したこともあること、和子の死亡後は原告福松方の家族の衣類は全て外部で購入するようになったことが認められるが、右証拠によれば、和子は日常食事の準備をしていた他、原告福松の営む管楽器の製作修理業の専従者として働いて年間二四万円の給与を支給されていたこと、そして結婚後特に洋裁によって収入を得たことはないことが認められ、したがって洋裁の仕事の量はそれ程多いものとは認められないのみならず、本件全証拠によっても、同女死亡後の衣類購入費の増加額は証明がない。
したがって、原告福松の財産上の損害は認められない。
(三) 被害者に生じた損害
(1) 亡和子の逸失利益
≪証拠省略≫によれば、亡和子は死亡時に満三五才であったことが認められ、≪証拠省略≫によれば、亡和子は、当時、原告福松の営む田中管楽器製作修理業の専従者として月平均二万円の給与を得ていたこと、その他原告春男の母である原告冨枝と家事を分担して亡和子は主として食事の準備を担当していた他、時には洋裁もしていたことが認められる。以上の諸事実によれば、亡和子の純収入は、生活費を控除して、一ヶ月一万四〇〇〇円を下らなかったものと認められる。そして、右証拠によれば、亡和子は満六三才まで二八年間稼働可能であったものと認められる。したがって、二八年間の収入の合計額から年五分の中間利息を年毎のホフマン複式計算によって控除すると、死亡時における現在値は、二八九万三一五四円となる。
(2) 亡和子の慰藉料
原告らは、亡和子の死亡による慰藉料を相続した旨主張するが、そもそも死亡により発生すべき権利を生存中に取得するという観念自体矛盾であり、被害者死亡の場合に被害者自身が自己の死亡に基く慰藉料請求権を取得することはあり得ず、その相続ということもあり得ない。
(3) 相続関係
≪証拠省略≫によれば、原告春男は亡和子の夫であり、原告孝は長男であること、原告春男、同孝以外には和子の相続人はいないことが認められる。よって、原告春男は、(1)の逸失利益の三分の一に当る九六万四三八五円、原告孝は三分の二に当る一九二万八七七九円の損害賠償債権をそれぞれ相続した。
(四) 原告ら固有の慰藉料
原告らは、和子の死亡による慰藉料と、原告孝の傷害による慰藉料とをそれぞれ請求する。ところで、≪証拠省略≫によれば、原告福松、同冨枝は、和子の両親ではなくその夫である原告春男の父母であることが認められるところ、義父母については実父母と同視すべき特段の事情のない場合には義父母に固有の慰藉料請求権を認めるべきではなく、本件においてはかかる特段の事情の主張立証はないから、原告福松、同冨枝の慰藉料請求は認められない。次に、原告孝の傷害の程度は比較的軽微であって後遺症も認められないから、生命侵害に比肩すべき場合或いはこれに準ずる場合とは到底認められず、同原告以外の原告らの同原告の傷害による慰藉料請求も認められない。
そこで、認容すべき慰藉料について按ずるに、本件事故の態様、亡和子は三五歳の若さで当時三歳の原告孝を残して世を去ったこと、同女の生前の活動状況、原告孝についてはその傷害の程度その他諸般の事情を考慮すれば、原告らの慰藉料額は、原告春男において一五〇万円、原告孝において一六五万円(和子の死亡につき一六〇万円、自己の傷害につき五万円)、亡和子の両親である原告大七、同ヒサにおいてそれぞれ二〇万円を以て相当と認める。
(五) 弁護士費用≪省略≫
四、(結論)
よって、被告らは、連帯して原告春男に対し金二九七万〇三八五円、
原告 孝に対し金三九二万八七七九円、
原告大七、同ヒサに対し各金二二万円、および弁護士費用である原告春男の内金三〇万円、原告孝の内金三五万円、原告大七、同ヒサの各二万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和四四年七月一七日から、原告春男の支出した治療費六〇〇〇円に対する支出の日の翌日である昭和四四年五月三日から、原告春男の内金一〇三万三二六〇円に対する不法行為の日より後である昭和四三年八月二日から原告春男の内金一六三万一一二五円、原告孝の内金三五七万八七七九円、原告大七、同ヒサの各内金二〇万円に対する不法行為の日である昭和四二年一二月一七日から、それぞれ完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告らの本訴請求を認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 篠田省二)